阪大東洋史が世界の東洋史学界の中で重きをなす研究領域は、近世・近代の中国史、前近代の内陸アジア史、そして中・近世の東南アジア・海域アジア史です。いずれの領域の教員も漢文文献を根本史料にしながら、現地語史料とフィールドワークの成果を合わせた研究を行っています。研究が「外国史」に関する以上、必然的に、その成果はグローバル・スタンダードで通用することが求められます。院生諸君に対しても、研究目標を高い水準に設定し、国内はもとより海外の研究者とも切磋琢磨するよう、日常的に指導しています。

また、各領域での専門的な研究を深化させるだけでなく、東洋史・世界史全般に関する幅広い学知を吸収するとともに、自身の研究・学習成果を分野横断的に位置づけて説明するための指導にも注力しています。専門的研究者を志望する人はもちろん、中学・高校の社会科・地歴科教員志望の人、さらには歴史研究に関する最先端の知見を深めて社会に還元したいという人の挑戦をお待ちしています。

教員紹介

教授 堤 一昭 教授 松井 太 教授 田口 宏二朗 准教授 河上 麻由子 准教授 多賀良寛

教授 堤 一昭

p_tsutsumikazu.jpegつつみ かずあき
1960年生。京都大学文学部卒業、京都大学大学院文学研究科博士後期課程(東洋史学専攻)学修退学。文学修士(京都大学、1988)。大阪外国語大学外国語学部国際文化学科比較文化講座専任講師、同助教授、同准教授、大阪大学大学院文学研究科准教授を経て、2013年6月より現職。
専攻:東洋史学
研究紹介
13 ~ 14世紀の「モンゴル時代」の中国(いわゆる元朝)の歴史を専門にしています。この時代は最近急速に研究が進み、全ユーラシア規模での人・もの・文化の移動・交流が注目されています。おもに現在の中国地域で異文化接触のなか、どのような社会ができていったのかを研究しています。時代の特質を知るために重要となる中国石刻史料も研究の対象となります。また、広く日本・中国など東アジアにおける自己・相互のイメージの現在にいたるまでの歴史的変遷、「東洋史」という学問の成立やこれからの歴史教育を考える仕事にも取り組んでいきたいと思っています。
メッセージ
私自身は上記のような研究をしていますが、より広く日本を含むアジアの歴史について学びたい人を歓迎します。みなさんには、次のことを目指してもらいたいと思っています。まずひとつは地域・時代・学問分野ほかを越境することにより、自らの視点を相対化すること、もうひとつは自分自身の研究テーマをひたすら深く調べ考えることです。どちらからでも、分からない苦しい時間の連続の後に目から鱗が落ちて、なるほど歴史とは人間とは社会とはそうなのかと思えるようなすばらしい瞬間をぜひ体験してもらいたい。その体験を出発点にして現代世界のさまざまな事象を考えてもらいたいのです。
主要業績
「蒙元時代における「中国」の拡大と正統性の多元化」『中華民国の制度変容と東アジア地域秩序』(共著、汲古書院、2008);「〈中国〉の自画像―その時間と空間を規定するもの―」『現代中国地域研究の新たな視圏』(共著、世界思想社、2007);「石濱文庫拓本資料調査の概要」『大阪外国語大学論集』35(2007);「大元ウルス高官任命命令文研究序説」『大阪外国語大学論集』29(2003);「大元ウルス治下初期江南政治史」『東洋史研究』58-4(2000)
概説・一般書
『グローバルヒストリーと帝国』(共著、大阪大学出版会、2013);『歴史学のフロンティア―地域から問い直す国民国家史観』(共著、大阪大学出版会、2008);『異文化コミュニケーションを学ぶ人のために』(共著、世界思想社、2006);『角川世界史辞典』(項目執筆、角川書店、2001)

2022年4月更新

教授 松井 太

p_matui.jpgまつい だい
1969年生。1999年、大阪大学大学院文学研究科博士課程修了。博士(文学)(大阪大学)。2001年弘前大学人文学部講師、2004年同助教授、2007年同准教授、2010年同教授。2015年4月,大阪大学文学研究科准教授。2017年10月より現職。(財)東洋文庫客員研究員。
専攻:中央アジア史・モンゴル帝国史
研究紹介
中国・新疆地域出土の古代ウイグル(古代トルコ)語・モンゴル語古文書資料を用いて中央アジアの歴史を研究している。主要なテーマは、13〜14世紀のモンゴル帝国時代の中央アジア・ウイグル社会における税役制度・文書行政システムを解明し、これをユーラシア東西におけるモンゴル支配に共時的に位置づけることである。また最近では、新疆・敦煌地域の諸仏教遺跡のフィールドワークを通じて、モンゴル帝国時代とその直前期におけるウイグル人の仏教信仰の様態や、巡礼圏・信仰圏の分析にも取り組んでいる。
メッセージ
古代〜中世の中央アジア史は、かつては「シルクロード」という雅称でロマンティックにイメージされてきたものでした。しかし、実際の古文書資料は、貪欲な大地主、酷薄な徴税役人、脱税対策に励む貧農など、ロマンとはおよそかけ離れた人々の日常をも示してくれます。一方、多言語の資料を比較分析することで、当時の「シルクロード」交易が確かに「グローバル世界史」を萌芽させていたことをも知り得ます。ロマンと現実、ミクロな社会とマクロな世界。いろいろな関心から「歴史の謎」に挑んでみませんか。
主要業績
「モンゴル時代の度量衡」『東方学』107(2004);Taxation Systems as Seen in the Uigur and Mongol Documents from Turfan: An Overview. Transactions of the International Conference of Eastern Studies 50(2005);Dating of the Old Uigur Administrative Orders from Turfan. VIII. International Turcology Congress: Books of Papers IV, Istanbul University(2014);「蒙元時代回鶻佛教徒和景教徒的網絡」『馬可・波羅 揚州 絲綢之路』(北京大学出版社,2016);『敦煌石窟多言語資料集成』(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所,2017, 共編著)
概説・一般書
「契丹とウイグルの関係」『契丹[遼]と10〜12 世紀の東部ユーラシア』勉誠出版(2013);「モンゴル時代の東西交易」『中国経済史』名古屋大学出版会(2013);「ソグドからウイグルへ」『ソグド人と東ユーラシアの文化交渉』勉誠出版(2014)

2018年 10月更新

教授 田口 宏二朗

p_taguchi.jpgたぐち こうじろう
1971年生。1999年、大阪大学大学院文学研究科博士課程修了。博士(文学)(大阪大学)。2003年大阪大学文学研究科助手、2004年追手門学院大学文学部講師、2008年追手門学院大学国際教養学部准教授を経て、2012年4月大阪大学大学院文学研究科准教授を経て、2018年4月より現職。
専攻:中国近世・近代史。
研究紹介
14世紀以降の中国、特に首都北京近辺地域の農業経済と、大運河を通じて北京に物資を運びこむ政策=「漕運」について研究しています。このテーマは、「中国」における「南/北」という対立軸が構築される様態を分析するうえで、極めて重要だと考えます。最近は、たまたま台湾で出会った資料を使い、1930年代の南京における土地登記や不動産・金融の考察、および中国における「所有権」のあり方、というテーマにも手を拡げつつあります。
メッセージ
近年は、中華人民共和国の存在感増大と連動するかたちで、「中国」という語を発することにともなう緊張感も高まりつつあります。そしてわれわれは近代主義的・反近代主義的、そして純粋な「中国文化愛好者」的(あるいはその逆)といった、さまざまな言説に取り囲まれています。そのなかで、親中・反中といった出来合いのスタンスに回収されない自前の立ち位置を、日々の思考実験のなかで学生諸賢といっしょに見定めたい、このように考えています。
主要業績
「明代の漕糧と餘米」 『東洋史研究』64-3(2005);「明代河北の農業経済と大運河」 『東洋史研究』71-4(2013);「ハードボイルドな中国社会経済史」 『中国研究月報67-3(2013);「登記の時代」 『近現代中国における社会経済制度の再編』(京大人文科学研究所、2016)
概説・一般書
「燕京襍記(一)」『アジア観光学年報』8(2007);「「北京人」と「上海人」」『アジアの都市と農村』(和泉書院、2013)

2018年 4月更新

准教授 河上 麻由子

p_kawakami2021.jpgかわかみ まゆこ
 1980年生まれ。2008年九州大学大学院博士後期課程単位取得退学。2010年2月に博士(文学)(九州大学)。2012年9月に奈良女子大学助教、2014年6月に同大学准教授を経て、2021年4月に現職。
専攻:東アジア古代・中世史
研究紹介
南北朝から隋唐代、西暦でいえば四世紀から九世紀にかけての、仏教史と対外関係史を研究してきました。この間、アジアで最も広く信奉された宗教が、仏教でした。生産活動を外部に頼る僧侶たちは、各地の王権・貴顕の支持を得て、アジアの各地に布教の旅に出ていました。その際彼ら僧侶は、仏教に関連する様々な文化―言語、寺院建築や仏像を作成する技術、祭礼に必要な文物―を伝えるとともに、支援者たちの政治活動に関与しました。そのような、信仰として、文化として、政治としての仏教について研究しています。
メッセージ
私が歴史学を志したのは、大学生の時でした。そのころは考古学を学びたいと思い、しかし状況が整っていなかったので日本史を学び、しかし日本史の枠では満足しきれずに、今は東アジアの歴史を学んでいます。次から次へと増える知的好奇心を須く満足させてくれるのが、大学での学びです。大阪大学ならば、そして東洋史研究室ならば、皆さんの果てしない知的好奇心に応えることができると自負しています。目眩く知の旅路が、豊中であなたを待っています。
主要業績
『古代アジア世界の対外交渉と仏教』(山川出版社、2011年)、「『職貢図』とその世界観」(『東洋史研究』74-1、2015年)、「五代諸王朝の対外交渉と僧侶」(古瀬奈津子編『東アジアの礼・儀式と支配構造』、吉川弘文館、2016年)、「転輪聖王と梁の武帝」(吉川真司編『日本的時空観の形成』、思文閣出版、2017年)、「論日本古寫經中的《廣弘明集》——以卷二十二和卷三十為中心」(南京大学域外漢籍研究所『域外漢籍研究集刊』15号、2017年)、「東아시아의 轉輪聖王」(『木簡과 文字연구』24、2020年)
概説・一般書
『古代日中関係史−倭の五王から遣唐使以降まで−』(中央公論新社、2019年)、「古代アジアにおける母」(三成美保・高田京比子・長志珠絵編『<母>の比較文化史』、神戸大学出版会、2021年)、「唐滅亡後の東アジアの文化再編」(吉川真司『シリーズ古代史をひらく 国風文化―貴族社会のなかの「唐」と「和」』、岩波書店、2021年)

2021年 4月更新

准教授 多賀 良寛

p_taga2024.jpgたが よしひろ
1988年生。2017年、大阪大学文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)(大阪大学)。2022年東北学院大学文学部講師。2024年4月より現職。
専攻:東南アジア史、ベトナム近世・近代史。
研究紹介
近世~近代期のベトナムについて、社会経済や対外関係を軸に研究を進めています。これまで主に参照してきたのは、在地王権である阮朝によって残された漢喃文献、とりわけベトナム本国で近年公開の進んだ行政文書です。最近ではこうした史料に加え、ベトナムの植民地化を進めつつあったフランス側の文書群も利用しています。多言語史料を駆使することにより、近代世界の到来がベトナムに与えた影響を、長期的・複眼的に分析したいと考えています。
メッセージ
巨大帝国や普遍的文明の形成という点でみると、東南アジアは世界史のなかで必ずしも中心的地位を占めてこなかったかもしれません。そのいっぽう、陸・海を通じて行われるヒト・モノ・情報の活発な移動は、東南アジアに世界史上稀にみる多様性と開放性とを与えてきました。また研究に多くのフロンティアが残されている東南アジア史は、新発見に満ちた分野でもあります。みなさんもぜひ、東南アジアから新しい世界史の見方を探究してみませんか?
主要業績
多賀良寛「財政史よりみた19世紀後半における阮朝統治の再検討」『東洋史研究』79-1(2020年);TAGA Yoshihiro, “The Rise of Silver Dollars: Changing Pattern of Silver Use in Nineteenth-Century Vietnam,” in Changing Dynamics and Mechanisms of Maritime Asia in Comparative Perspectives, Singapore: Palgrave Macmillan, 2021; TAGA Yoshihiro, “The Nguyễn Dynasty’s Government Purchase System in the First Half of the Nineteenth Century: Multiple Functions and Economic Rationality,” Southeast Asian Studies 12-1 (2023)
概説・一般書
多賀良寛・今井昭夫・川口洋史・北川香子「タイソンの乱を経てベトナムの南北統一へ」(『アジア人物史8 アジアのかたちの完成』集英社、2022年);多賀良寛「交錯する視点:日本における「外国史」としてのベトナム史研究」(『海外の日本中世史研究:「日本史」・自国史・外国史の交差』勉誠社、2023年)

2024年 4月更新