◆美学
美学研究室は、美学思想をさまざまな芸術とのつながりから理解することを重視してきました。現在はさらに、美学という学問がいかに日常生活とかかわりを持つのかにも関心を向けています。美学が積み重ねてきた議論は、分野を横断するアートを考察するうえで有効ですし、デザインの歴史について考える手がかりにもなります。今日ますます芸術を定義するのが難しいのは、周縁がたえず更新されて輪郭が定まらないからでしょう。ならば、芸術をその周縁から考えるのは一番有効な方法です。そして、既存の芸術ジャンルに制約されない美学こそが周縁分野に足を踏み入れることができます。
教員紹介
教授 高安 啓介
たかやす けいすけ 1971年生。一橋大学社会学部卒業。大阪大学大学院文学研究科博士課程修了(芸術学)。博士(文学)。愛媛大学法文学部准教授、2016年4月より大阪大学文学研究科准教授を経て、2019年4月より現職。 専攻:美学/芸術学 |
- 研究紹介
- 文系らしいデザイン美学のありかたを考えるなかで重要な仕事と思われたのは、デザインを論じるうえで鍵となってきた「美学用語」について反省することでした。分野をまたがって使用される「美学用語」の意味を顧みることは、異なる分野の人間どうしが議論するうえで不可欠な作業であると考えます。拙書『近代デザインの美学』では「構成」「形式」「様式」「空間」「表現」などについて論じましたが、今後はそれらに加えて、現代デザインの鍵用語についても考察を進めようとしています。たとえばそれは「社会」「地域」「包容」「環境」「持続」などです。これらは社会系の用語ではありますが、今後それらはアートを論じるうえでも欠かせない点において、立派な「美学用語」になると信じています。
- メッセージ
- 18世紀にバウムガルテンが美学を「感性的認識の学」として創始したならば、現代の美学は「感性の交通の学」として特徴づけられると思います。現代の美学のおもな仕事は、感性コミュニケーションについて反省し、伝達の媒体となる諸要素について理解を深めることではないでしょうか。とはいえこれは新しい関心のようで、美学の歴史からすれば、新しくはない仕事です。従来から美学は、芸術諸分野において鍵となる用語について考察してきましたし、作品の形象にそなわる伝達の働きについて考察してきました。たしかに先人から学ぶことは多いので、思想史研究はなお大きな意味をもちます。私たちは美学のもつ「感性の交通の学」の側面をもっと意識して、生き生きとしたコミュニケーションを生成するのに一定の役割をはたせるよう試行錯誤をおこないます。
- 主要業績
- 『近代デザインの美学』(単著、みすず書房、2015); 「形象としての具体詩」『形象』2号(2017); 「アドルノ美学における形象の問題」『形象』1号(2016);“The Development of Design Education for Children in Japan,” ACDHT (2015); 「美学の視点からみた近代タイポグラフィ」『デザイン理論』60号(2012); “Gestaltung and Kosei: Key Concepts in Design Education,” Words for Design, no.2 (2009);「仮象とアンチ仮象:ラッヘンマンの作曲によせて」『音楽学』48巻2号(2003); アドルノ『社会学講義』(共訳、作品社、2001)
- 概説・一般書
- 『人文学の現在』(共著、創風社出版、2012年)。『地域文化のアクチュアリティ:愛媛からの発信』(共著、シード書房、2006年)。
2019年 4月更新
教授 田中 均
たなか ひとし 1974年生。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了(美学芸術学、2007年)。博士(文学)。日本学術振興会特別研究員(PD、2005年から2008年)、山口大学人文学部講師(2008年から2011年)、同准教授(2011年から2012年)を経て、2012年4月から現職。2016年4月から2020年3月まで大阪大学COデザインセンターに派遣。日本シェリング協会第7回研究奨励賞(2011年)。 専攻:美学 |
- 研究紹介
- 私の研究の出発点は、18世紀末から19世紀の初頭にかけてのドイツ語圏の美学です。具体的には、フリードリヒ・シラーとフリードリヒ・シュレーゲルの美学理論について研究し、その成果を著書『ドイツ・ロマン主義美学』にまとめました。近年注目しているのは、芸術理論における「参加」の概念で、芸術作品とその受容者の関係、また専門的芸術家と非ー専門家の関係について考察しています。さらに、「テアトロクラティア」という概念を通じて、芸術とデモクラシーとの関係を解明することも現在の課題です。
- メッセージ
- 私は「美学」という学問を紹介する時に、「広い意味での哲学の一分野で、芸術・美・感性がその三大テーマです」と話します。そして「三つのどれかに関係すれば、美学の問題になると言えます」と付け加えます。確かに論理ではなかなか捉えがたい分野ですが、だからこそ一歩ずつ思考していく喜びや意義も大きいのです。近年では芸術や感性にかかわる新たな学問分野がいくつも生まれていますが、原理的な問いに立ち返ることによって学問相互の、そして学問と実践の交通整理をするという美学の課題はかえって増していると思います。
- 主要業績
- 『ドイツ・ロマン主義美学』(単著、御茶の水書房、2010年)、『〈過去の未来〉と〈未来の過去〉ーー保坂一夫先生古稀記念論文集』(共著、同学社、2013年)、『批評理論と社会理論1:アイステーシス』(共著、御茶の水書房、2011年)、『歴史における「理論」と「現実」』(共著、御茶の水書房、2008年)、「芸術と死ーーベンヤミン『ドイツ悲哀劇の根源』における悲哀劇と悲劇ーー」(論文、『待兼山論叢 美学篇』第46号、2012年)、「ロマン主義的アイロニーのアクチュアリティー」(論文、『西日本哲学年報』第18号、2010年)、クリストフ・メンケ『芸術の至高性』(共訳、御茶の水書房、2010年)
- 概説・一般書
- 大阪大学ショセキカプロジェクト編『ドーナツを穴だけ残して食べる方法』(共著、大阪大学出版会、2014年)、H・J・ザントキューラー編『シェリング哲学』(共訳、昭和堂、2006年)
2024年 4月更新(写真撮影:近松由望)
准教授 東 志保
あずま しほ 1979年生。国際基督教大学比較文化研究科博士前期課程修了(比較文化)。パリ第三大学映画視聴覚研究博士(Docteur en Cinéma et Audiovisuel)。大阪大学文学研究科助教を経て、2021年4月より現職。 専攻:映像研究、比較文化論 |
- 研究紹介
- 専門は、フランス語圏を中心としたドキュメンタリー映画の研究ですが、特に間メディウム的な映像表現のあり方に関心を寄せています。フランス留学時代から、クリス・マルケルという映像作家の研究を続けていますが、近年は他の作家にも対象を広げて、映像における美学と倫理の共存や映像と言葉の交錯について考察することを課題にしています。
- メッセージ
- 現在、動く映像を見るということは特別な経験でも何でもなくなってしまいましたが、その成り立ちやあり方は「近代」を生きる私たちの思考や経験に大きな影響を与えています。純粋に映画を楽しむことは、映画の歴史を学んだり、映像を分析することとは相容れないように思うかもしれません。しかし、映画を見る喜びから、世界への探究心も生まれるのです。スクリーン(あるいは画面)の中と外を繋ぐような視点をぜひ養っていただければと思います。
- 主要業績
- 『ジャン・ルーシュ:映像人類学の越境者』(共著、森話社、2019年); 「ヨリス・イヴェンスのエッセイ映画―『セーヌの詩』から『ロッテルダム・ユーロポート』まで」 『Arts and Media』 9号(2019); CinémAction n°165 Chris Marker : Pionnier et novateur (共著、Edition Charles Corlet, 2017);『クリス・マルケル:遊動と闘争のシネアスト』(共編著、森話社、2014年)
- 概説・一般書
- 『未来の記憶のためにークリス・マルケルの旅と闘い』(共編著、山形国際ドキュメンタリー映画祭、2013年)
2021年 6月更新
◆文芸学
文芸学研究室は、芸術学の一分野として文学(文芸)や作家の思想を取り扱います。アリストテレス『詩学』などの西洋古典文献から連なる文芸学の潮流を重視することから西洋古典学も扱いますが、関心の対象は幅広く、古今東西の文学や思想・文学論も視野に収めており、文芸学研究室に所属する学生の研究対象は多岐に渡っています。文芸学は「文芸学という学問自体がどのような学問であるべきか」という問いを内在する学問でもあります。文芸学の名の下で取り組む一人一人の研究が、文芸学という学問を発展させていくという側面があり、研究室では日々切磋琢磨がなされています。
教員紹介
教授 渡辺 浩司
わたなべこうじ 1962年生。大阪大学文学部卒業。大阪大学大学院文学研究科博士課程修了。博士(文学)。大阪大学助手、助教、准教授を経て2023年1月より現職。 専攻:文芸学/西洋古典学 |
- 研究紹介
- (1)古代ギリシア・ローマの弁論術と詩学の研究。プラトンの芸術批判、アリストテレスの芸術擁護、そして弁論術、キケロの弁論術を研究しています。(2)美学と弁論術の関係についての研究。美学成立における弁論術が果たした役割について調べています。バウムガルテンの高弟ゲオルグ・フリードリッヒ・マイアーの『あらゆる学芸の基礎』をゆっくりと読んでいます。バウムガルテン『美学』を分かりやすく紹介した著作ですが、かなりの大部なのでいつ読み終わるか。
- メッセージ
- 作品(テキスト)をどう読み、どう理解し、自分の言葉で述べるか。作品と理論との両方に目配せしてください。
- 主要業績
- 「プラトンとアリストテレスの音楽観」、大森敦史・岡林洋・仲間裕子編著『芸術はどこから来てどこへ行くのか』、晃洋書房、2009年、302-318頁。「アリストテレスの『ホメロス問題』」、手島勲矢編著『近代精神と古典解釈——伝統の崩壊と再構築——』(高等研報告書1102)、2012年3月、212—228頁。「私小説の誕生と死」、『日本における『芸術』概念の誕生と死』(平成11年度~平成14年度科学研究費補助金(基盤研究(A)(2))(研究代表者:上倉庸敬)研究成果報告書)、2003年3月、141-149頁。「エクフラシス――ローマ帝政期における弁論教育――」、『弁論術から美学へ――美学成立における古典弁論術の影響』(平成23年度〜平成25年度科学研究費補助金基盤研究(C)(研究代表者:渡辺浩司)研究成果報告書)、2014年3月31日、7-15頁。
- 概説・一般書
- 『世界の名前』(共著、岩波新書、2016年)。『若者の未来をひらく』(共著、角川学芸出版、2011年)。『芸術はどこから来てどこへ行くのか』(共著、晃洋書房、2009年)。『ディオニュシオス/デメトリオス 修辞学論集』(共訳、京都大学学術出版会、2004年)。『クインティリアヌス 弁論家の教育 1』(共訳、京都大学学術出版会、2005年)。『クインティリアヌス 弁論家の教育 2』(共訳、京都大学学術出版会、2009年)。『ルキアノス全集 4』(共訳、京都大学学術出版会、2013年)。
2023年 1月更新
准教授 西井 奨
にしい しょう 1982年生。京都大学大学院文学研究科博士課程修了。博士(文学)。日本学術振興会特別研究員PD、大阪大学特任講師(常勤)、講師を経て、2024年4月より現職。 専攻:文芸学/西洋古典学 |
- 研究紹介
- オウィディウス、ホラティウス、ウェルギリウスといった古代ローマの詩人たちの文学(文芸)作品を主な研究対象としている。特に「作中でのギリシア・ローマ神話の描かれ方」と「文学(文芸)作品に対する詩人の態度」の二つが、自分にとっての大きな研究テーマである。長らくオウィディウスの作品研究を続けてきたが、これに加えて近年は、ホラティウス『詩論』について美学史との関連から研究を進めている。
- メッセージ
- 「文芸すなわち芸術としての文学の本質や構造を解明しようとする学問」が文芸学という学問であるわけだが、現実的に卒業論文や修士論文で扱えるのは、例えばある一人の作家の作品についてといったような、極々狭いテーマのものとなるだろう。しかし狭いテーマであっても、「作品に対して自分で問いを立て、答えを追求していく」という研究の過程そのものが、「芸術としての文学の本質」に接近することになるのではないかと私は考えている。そしてその「本質」に接近したと実感できた時、良い論文を仕上げることができるのかもしれない。
- 主要業績
- 「オウィディウス『名高き女たちの手紙』第13歌におけるラーオダメイア」(『西洋古典学研究』第59号、2011年)、「バットスの石化 ――オウィディウス『変身物語』第2巻676-707におけるadynaton」(共同研究成果報告書『神話表象のアレゴリズム研究』、2012年)、「Hercules’ Honor and Dishonor: Deianira in Ovid Heroides 9」(共同研究成果報告書『ヨーロッパ芸術におけるギリシア・ローマ神話の水脈に関する分野横断的研究』、2014年)、『オウィディウス『名高き女たちの手紙』におけるギリシア神話の諸相』(博士学位論文、2014)
- 概説・一般書
- 『神の文化史事典』(共著、白水社、2013年)
2024年 4月更新