これまで日本文化の研究では、日本の固有性や特異性がことさら探究されてきた。しかし、それは近代日本が西洋を自覚するプロセスのなかで“美しい日本” “伝統の日本”といった形で構築してきた想像の所産ではなかったろうか。日本という地域の歴史や文化、思想を孤立した特殊なもの、あるいは自明なものとみるのではなく、一国史・単一文化の枠を突破し、異質な文化との相互交流・摩擦のコンテクストを踏まえた比較や、フィールドワークに依拠して研究する視角が求められている。日本学研究方法論ゼミでは、多くの留学生たちとともに、互いの文化や民族、性を越境し横断する、開かれた多様なディスカッションの場となることをめざしている。
教員紹介
教授 宇野田 尚哉 教授 北村 毅 准教授 安岡 健一 准教授 中嶋 泉
教授 宇野田 尚哉
うのだ しょうや 1967年生。1993年大阪大学大学院文学研究科博士前期課程修了、1996年同後期課程単位修得退学。博士(文学)。2000年神戸大学国際文化学部講師、2001年同助教授,2007年同大学大学院国際文化学研究科准教授。2010年より大阪大学大学院文学研究科准教授、2017年より同教授。 専攻:日本思想史 |
- 研究紹介
- 近世・近代の日本思想史を専門に研究しています。もともとの研究テーマは荻生徂徠を中心とする18世紀日本の儒家思想ですが、近年は近現代の諸問題も扱っています。思想史を研究する場合、ある思想家がなにを考えていたのかを正確に理解することも重要ですが、その思想が社会のうちに投げ出されたときそれを受け止めた人々がその思想をどう生きたかを明らかにすることもまた重要です。私は、後者の側面に重点を置きながら、〈思想の社会史〉と特徴づけることのできるような研究を行っていきたいと考えています。
- メッセージ
- テキストをその歴史的背景と絡めあわせながら読み解くことにより、その時代とその時代を生きた人々とを総合的に描き出すような歴史叙述をしてみたいと思っていますが、一筋縄ではいきません。テキストに沈潜するのでも、テキストを歴史的背景に還元するのでもないような読みの水準を、文学や歴史の研究を志す方々といっしょに探っていければと思っています。
- 主要業績
- 『彦根城博物館叢書6 武家の生活と教養』(共著)彦根城博物館(2005);『身分的周縁と近世社会5 知識と学問をになう人びと』(共著)吉川弘文館(2007);『近世の宗教と社会3 民衆の〈知〉と宗教』(共著)吉川弘文館(2008年);『宗教から東アジアの近代を問う』(共著)ぺりかん社(2002);「成立期帝国日本の政治思想」『比較文明』19(2003);『復刻版ヂンダレ・カリオン』別冊(共著)不二出版(2008)ほか。
- 概説・一般書
- 『「在日」と50年代文化運動』(共著)人文書院(2010)ほか。
2018年 8月更新
教授 北村 毅
きたむら つよし 1973年生。2006年早稲田大学大学院人間科学研究科博士後期課程修了。博士(人間科学)。2007年早稲田大学高等研究所助教、2009年同准教授。2010年早稲田大学琉球・沖縄研究所客員准教授。2015年大阪大学文学研究科准教授を経て2023年4月より現職。 専攻:文化人類学・民俗学、オーラルヒストリー |
- 研究紹介
- 他者の体験を聞くことに興味をもって研究してきました。聞き書きやオーラルヒストリーと呼ばれる手法です。民俗学者の宮本常一は、民俗学を「体験の学問」と評しました。この言葉には、フィールドワークを通した調査者自身の「体験」という意味だけではなく、人の「体験」を見聞きする学問であるという意味も含まれているのではないかと思います。すなわち、民俗学者は、他者の「体験」を見たり・聞いたりすることを通して、自らの学問的体験を培ってきたといえます。私は、沖縄などで、戦争体験者の生活史や地域の精神医療・福祉を担ってきた人びとの体験を聴き取ってきました。そこから研究という狭い枠組みを超えて、多くのことを学んできました。聞き書きには、どんな本にも書かれていないことを自分の体で知る面白さがあります。そこから自分の研究を切り拓いていく楽しさに魅了されて、今日に到ります。
- メッセージ
- 日本学には、幅広いテーマと視点から「日本」について探究している人びとが集っています。彼らの研究には共通して、いったい「日本」とはどこからどこまでなのか、そもそも「日本」固有の文化などあるのか、はたして「日本人」と名指される存在とは誰なのかといった問いがあるように思います。「日本」の文化や民俗について見識を深めたいという動機で日本学の門戸を叩いたのにもかかわらず、いつの間にか、先の根源的な問いに行き着くようです。とはいえ、この問いに正しい答えなどはなく、重要なのは問いつづける過程です。自文化、ひいては自分の「当たり前」をどんどん学び捨てて(Unlearn)いただきたいと思います。
- 主要業績
- 『死者たちの戦後誌:沖縄戦跡をめぐる人びとの記憶』(御茶の水書房、2009年、単著)、『沖縄における精神保健福祉のあゆみ』(沖縄県精神保健福祉協会、2014年、編著)、『戦争社会学の構想:制度・体験・メディア』(勉誠出版、2013年、共著)、「戦争の記憶と感情の問題:沖縄の「戦後」と震災後が交差する場所から」(『ワセダアジアレビュー』、13号、2013年)、「「沖縄の精神衛生実態調査」の医療人類学的研究:疫学調査から歴史経験を読み解く」(『琉球・沖縄研究』、第5号、2017年)
- 概説・一般書
- 『沖縄学入門:空腹の作法』(昭和堂、2010年、共著)
2023年4月更新
准教授 安岡 健一
やすおか けんいち 1979年生。2009年京都大学大学院農学研究科博士課程卒業、2011年農学博士(京都大学)取得。日本学術振興会特別研究員、飯田市歴史研究所研究員を経て、2015年に大阪大学へ。2017年4月から現職。 専攻:日本近現代史、移民史 |
- 研究紹介
- 近現代の日本社会に生じた、人の移動をめぐる様々な事象を研究することを通じて、現代につながる歴史を学んでいます。とくに農業・農村を学ぶことによって、人がどのようにして繋がり、生きてきたのかに迫ろうとしているのだろうと思います。近年は地域における歴史資料の収集・保存・活用やオーラルヒストリーの方法論など、関心がどんどん広がっています。
- メッセージ
- 出会った本や人、環境から多くのものを吸収し、積極的にアウトプットしてください。研究は、新しい「学知」を作り上げてゆく創造的な活動です。そのために身につけなければいけないことも多く、自己管理も大変です。とはいえ、高い志をもって努力した経験は、自分個人には役立つような気がします。
- 主要業績
- 『「他者」たちの農業史-在日朝鮮人・疎開者・開拓農民・海外移民』(京都大学学術出版会、2014年、単著)、「高度成長期地域社会における高齢者の研究」(『農業史研究』50号、2016年)『農林資源開発史論Ⅰ 農林資源開発の世紀』(京都大学学術出版会、2013年、共著)、『貴司山治研究』(不二出版、2011年、共著)
- 概説・一般書
- 『読む辞典:人の移動』(東信堂、2013年、共著)
2018年 8月更新
准教授 中嶋 泉
なかじま いずみ 国際基督教大学教養学部卒。リーズ大学大学院修士課程、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員を経て、一橋大学大学院言語社会研究科博士課程単位取得満期退学。博士(学術)(一橋大学)。広島市立大学芸術学部准教授、東京都立大学人文科学研究科准教授を経て、現職。 専攻:日本学 |
- 研究紹介
- 近現代日本の美術における批評言説の分析や、ジェンダー、フェミニズム理論による分析、とりわけ第二次世界大戦後における女性美術家の芸術実践の考察を行ってきました。国境や文化を超えて自分の表現を試し、変化させていく美術家も関心を持つ対象の一つです。最近では狭義の美術作品に限らない、現代の写真、映像、広告、ファッション文化のジェンダー表現の構造分析にも取り組んでいます。
- メッセージ
- 芸術作品は、社会の反映にもなり得ますが、それに対する「応答」ないし「抵抗」の場にもなります。そこには、ジェンダー、階級、民族など様々な要素が重なり合って作用しているため、一見しただけで判断できることはごくわずかです。芸術作品のみならず、様々な文化的事象のなかに重層的な意味を捉えることは、自分の世界や思考の幅を広げ、ときには大きく変化させることにつながります。みなさんも、視覚文化研究の深い海に飛び込んでみませんか。
- 主要業績
- 『アンチ・アクション―日本戦後絵画と女性画家』(ブリュッケ、2019年)、Past Disquiet: Artists, International Solidarity and Museums-in-Exile(共著、University of Chicago Press、2018年) 『ニューヨーク ― 錯乱する都市の夢と現実』(共著、竹林舎、2016年)、Shiraga/Motonaga: Between Action and the Unknown, (共著、Yale University Press, 2015)など。
- 概説・一般書
- 『現代美術の教科書』(共著、美術出版社、2005年)、『現代美術を知る:クリティカルワーズ』 (共著、フィルムアート社、2002年)
2021年 4月更新