日本史学

本講座では、古代1・中世1・近世2・近代2(助教1)の計6名の教員を揃え、充実した研究・教育活動を行っています。近年の日本史研究の高度化にはめざましいものがありますが、私たちは演習での厳密な資史料の読解や論文の検討を通して、精緻な実証力や独創的な構想力の養成に努めています。

また、定期的に院生発表会を行って、時代や分野の枠にとらわれない幅広い視座やプレゼンテーション能力の育成に配慮しています。研究室では自主的な勉強会が盛んに行われ、学会活動も活発です。春と秋には研究室旅行があり、フィールドワークに汗を流し、夜のコンパでは大いに歓談し交流を深めています。研究室のこの厳しく和やかで開放的な雰囲気は、今後とも大切にしたいと考えています。

教員紹介

教授 市 大樹 教授 伴瀬 明美 准教授 野村 玄 准教授 古結 諒子

教授 市 大樹

いち ひろき
1971年生まれ。2000年、大阪大学大学院文学研究科博士後期課程単位修得退学。文学博士(大阪大学、2001年)。奈良文化財研究所研究員、同主任研究員を経て、2009年4月より現職。日本学術振興会賞(2012年)、日本学士院学術奨励賞(2012年)、濱田青陵賞(2013年)、古代歴史文化賞大賞(2014年)。
専攻:日本古代史
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研究紹介
学問的にいくつかの理由もあるが、一番は旅行が好きだということもあって、学生・院生時代は古代交通史の諸問題に取り組んできた。その後、はじめて就職した奈良文化財研究所では、古代都城の発掘調査と木簡整理を日常業務とした。特に飛鳥・藤原地域出土の7世紀木簡の研究に力を注ぎ、阪大への異動の際に『飛鳥藤原木簡の研究』をまとめた。その後、東アジアのスケールで、日本古代の文字文化形成に関わる問題を考えている。阪大に戻ってからは、古代交通史研究にも本腰を入れ、学位取得から15年以上もたってしまったが、『日本古代都鄙間交通の研究』をようやく刊行することができた。大化改新や都城制などの問題にも取り組み始め、いくつかの論文を執筆している。文献史学の枠にとらわれず、考古学をはじめとする隣接分野の成果をいかに組み込むかが大きな課題である。
メッセージ
日本古代史の論文を執筆するためには、相対的に数の少ない史料を突き詰めて読み込み、膨大な研究史を吸収・理解した上で、独自の見解をださなければならない。じっくりと取り組む必要があることはいうまでもないが、あまり根を詰めすぎると、見えるものも見えなくなってしまう。まったく別のことをやっているとき、ふとわかる瞬間は誰にもあるに違いない。そのためには、適度な息抜き、心の余裕が必要である。自分の狭い専門の枠に閉じこもらず、旺盛な知的好奇心をもって、さまざまな分野の人たちと積極的に交流してほしい。
主要業績
『飛鳥藤原木簡の研究』(単著、塙書房、2010年);『日本古代都鄙間交通の研究』(単著、塙書房、2017年);「御食国志摩の荷札と大伴家持の作歌」(『萬葉集研究』第33集、2012年);「大化改新と改革の実像」(『岩波講座日本歴史2古代2』岩波書店、2014年) ;「黎明期の日本古代木簡」(『国立歴史民俗博物館研究報告』第194集、2015年);「門籍制に関する一考察」(『史聚』第50号、2017年)
概説・一般書
『飛鳥の木簡―古代史の新たな解明―』(単著、中央公論新社、2012年);『すべての道は平城京へ―古代国家の〈支配の道〉―』(単著、吉川弘文館、2011年);『古代地方木簡の世紀』(共著、サンライズ出版、2008年);『週間日本の歴史10 飛鳥・藤原京の理想と現実』(共著、朝日新聞社、2013年);『古代日本と古代朝鮮の文字文化交流』(共著、大修館書店、2014年);『日本古代交流史入門』(共著、勉誠出版、2017年)

2020年 4月更新

教授 伴瀬 明美

ばんせ あけみ
 1967年生。1997年3月、大阪大学大学院文学研究科博士後期課程単位修得退学。大阪大学博士(文学)。東京大学史料編纂所助教、同准教授、2021年4月大阪大学大学院文学研究科准教授を経て、2023年1月より現職。
専攻:日本中世史
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研究紹介
中世天皇家の存在形態とその形成過程の解明を主要なテーマとし、中世天皇家と貴族社会に関わる諸問題を、天皇家領の領有形態、後宮の歴史的変遷、皇子女の扶養形態、女房出仕と貴族の家、寺院社会と貴族社会の関係といった、様々な視点から研究している。最近は、皇后・王后など「后」位を共通して有する大陸・朝鮮半島・日本列島の諸王朝間における后位(関連儀礼)の比較史に関心を抱き、関連分野の研究者と共同研究を行っている。
メッセージ
大学院では、歴史研究の基礎となる史料の読解方法について徹底的に学びます。また、膨大な先行研究と格闘しながら自ら問題意識を見出し、それを研究史上に位置づけ、独自の研究テーマを設定していきます。「大変だなあ」と思うこともあるでしょう。しかし、日本史研究室には多くの先輩や仲間たちがいて、互いに教え/教えられ、議論しながら成長できる豊かな学びの場があります。わたしもみなさんと一緒に勉強するなかで、新たな視点を発見したり、思いがけない気づきを得る喜びを共にしたいと思っています。
主要業績
「院政期〜鎌倉期における女院領について」(『日本史研究』374、1993年)、「室町期の醍醐寺地蔵院」(『東京大学史料編纂所研究紀要』26、2016年)、「摂関期の立后儀式」(大津透編『摂関期の国家と社会』山川出版社、2016年)、「「新迎」「新迎え」について」『日本史研究』680、2019年)、「日本「皇后」的特質」(翻訳梁暁弈、中央研究院歴史語言研究所『古今論衡』、2019年)、東京大学史料編纂所編『大日本史料』第二編之三十一(編纂担当、2015年)、同編『大日本史料』第二編之三十二(編纂担当、2019年)
概説・一般書
共著『歴史のなかの皇女たち』(小学館、2002年)、「女房として出仕すること」(総合女性史学会・辻浩和・石月静恵編『女性労働の日本史』勉誠出版、2019年)、「三女威子と四女嬉子—それでも望月は輝き続ける」服藤早苗・高松百香編著『藤原道長を創った女たち 〈望月の世〉を読み直す』明石書店、2020年)

2023年 1月更新

准教授 野村 玄

のむら げん
1976年生まれ。2004年、大阪大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)(大阪大学)。大阪青山短期大学専任講師、防衛大学校講師、同准教授を経て、2016年4月より現職。
専攻:日本近世史
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研究紹介
日本の国家体制における天皇の地位・権能の意味について関心がある。織豊期や江戸時代の政治権力が実質的な政権運営を可能としながらも、天皇を完全に無視できずにいた理由は何かという素朴な疑問が出発点であった。実はこの疑問は、日本国憲法下における天皇が国政に関する権能を有しないとされながら、政治にあるインパクトを与え続けていることを見て生じたものでもあった。最近は、前後の時代の研究成果をも積極的に参照し、近世の天皇の歴史的特質をより浮かび上がらせ、近現代への展望を得たいと考えている。
メッセージ
これほど社会が混迷の度を増すと、少しでも先を見通して安心したい。それは誰しも同じだ。ところが、歴史家は過去に目を向ける。この大変な現代に、なぜ自分は敢えて過去を見つめ、なぜその研究テーマを選ぶのか。自分の研究行為の意味とは何か。なぜ自分は今後その研究対象と関わり続けるのか。これらがわからなくなってしまうと、研究行為は続けられなくなる。わからなくなったら、立ち止まってよい。いや、立ち止まるべきだ。学生時代はそれが可能だ。焦らず、自分の研究テーマ(なすべきこと)を見つけてほしい。
主要業績
野村玄『日本近世国家の確立と天皇』(清文堂、2006年)、野村玄『徳川家光 我等は固よりの将軍に候』(ミネルヴァ書房、2013年)、野村玄『天下人の神格化と天皇』(思文閣出版、2015年)、野村玄「元禄十六年十二月の七社七寺祈祷・内侍所御神楽と徳川綱吉-天皇と将軍に「宗教的機能」とその相剋は存在したのか-」(伊東貴之編『東アジアの王権と秩序-思想・宗教・儀礼を中心として』汲古書院、2021年)。
概説・一般書
野村玄『豊国大明神の誕生 変えられた秀吉の遺言』(平凡社、2018年)、野村玄『徳川家康の神格化 新たな遺言の発見』(平凡社、2019年)、野村玄『新説 徳川家康 後半生の戦略と決断』(光文社新書、2023年)。

2023年 11月更新