音楽学

音楽学も演劇学もともに我が国の総合大学の中に位置づけられているという点で数少ない存在です。ともに音楽文化、演劇文化全般を広く扱い、いわゆる「クラシック」音楽や民族音楽から日本古典音楽、ポップ・ミュージックまで、また西欧演劇や日本古典演劇からミュージカルやバレエまで、それらを広く表演芸術(パフォーミング・アーツ)としてとらえて、音楽史演劇史的にはもちろん、人類学や社会学また美学や文学などの隣接諸科学との関係の中で研究を進めています。ここには多くの大学院生が所属しており、それぞれの専門領域の研究に熱心に取り組んでいます。専門領域や知的背景を異にする多くの院生たちは、日々の講義や演習を通して互いに刺激しあい、学会での口頭発表や論文執筆をする一方で、それぞれにコンサートや演劇上演など実際に関わる機会も少なくなく、研究の社会的広がりを常に念頭において活動しています。

教員紹介

教授 伊東信宏  教授 輪島裕介 准教授 鈴木聖子

教授 伊東 信宏

いとう のぶひろ
1960年、京都市生まれ。大阪大学文学部美学科(音楽学)卒業。同大学院修了。博士(文学)。日本学術振興会特別研究員、リスト音楽院(ハンガリー)客員研究員などを経て、1993年、大阪教育大学助教授。2004年、大阪大学助教授(後、准教授)、2010年4月より現職。
専攻:音楽学
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研究紹介
⑴20世紀ハンガリーの作曲家、バルトークの民俗音楽調査、研究について(下記業績の新書『バルトーク』など)。そして、そのような民俗旋律を素材とした編曲の研究(下記『バルトークの民俗音楽編曲』)。 ⑵中東欧の村の楽師の音楽に関する研究。こちらは、だんだん南下し、今はブルガリアの大衆音楽にハマっています(下記『中東欧音楽の回路』など)。 ⑶東欧から見たハイドン(下記『ハイドンのエステルハージ・ソナタを読む』)。そこから派生した鍵盤楽器の歴史などについても関心あり。 ⑷計画中の研究は、東欧からみたリゲティ。
メッセージ
「音楽学」というのは、とても魅力的で、同時に非常に要求の多い学問です。対象とする文化の言葉を学ばねばならないのは当然ですが、それ以外にその文化の音楽実践を習得せねばなりませんし(楽器を演奏するとか、特殊な発声で歌うとか)、その記譜法や、その対象にふさわしい分析のやり方にも通暁せねばなりません。音楽学は、そういう苦労をしてでも取り組んでみる価値と魅力を持っている、と信じています。阪大の音楽学研究室は、そういう音楽学を本格的に専攻できる数少ない場の一つです。
主要業績
著書『バルトーク』(中公新書、1997年、吉田秀和賞受賞)。著書『ハイドンのエステルハージ・ソナタを読む』(春秋社、2003年)。著書『中東欧音楽の回路:ロマ・クレズマー・20世紀の前衛』(岩波書店、2009年、サントリー学芸賞、木村重信民族藝術学会賞受賞)。「バルトークの民俗音楽編曲」(大阪大学出版会、2012年)。論文“Az utolsó hiányizó láncszemek: Bartók, Negyvennégy duó, 8.Sz. - a“ Tót nóta” eredeti népzenei forrása”, in Parlando 50(2008)/6, pp.7-10.など。
概説・一般書
編著『ピアノはいつピアノになったか?』(大阪大学出版会、2007年)。楽譜『バルトーク集』第1~7巻(春秋社、2003 ~ 2008年、「序」「作品解説」を担当)。論考「『チャルガ』に夢中」(日本室内楽振興財団機関誌『奏』27、2007年)、論考「村上春樹『1Q84』:物語の中の《シンフォニエッタ》」(『音楽の友』平成21年8月号)など。その他に朝日新聞紙上で演奏会評、NHK-FMで「ブラボー・オーケストラ」のコメンテータを担当。

2021年 7月更新

教授 輪島 裕介

わじま ゆうすけ
1974年生。東京大学大学院人文社会系研究科(美学芸術学)博士課程単位修得退学。博士(文学)。日本学術振興会特別研究員、国立音楽大学ほか非常勤講師、2011年4月大阪大学文学研究科准教授を経て、2021年4月より現職。
専攻:音楽学
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研究紹介
民族音楽学・ポピュラー音楽研究。特に非西洋地域の大衆音楽について。現在の主要な関心はレコード産業成立以降の近代日本の音楽で、2010年に「演歌」というジャンルの形成についての著書を刊行しました。元々はブラジル北東部のアフロ系音楽について、ローカル/グローバルの相関という観点から研究してきました。最近は、現代日本のポップ・カルチャーの海外での受容や、ヨーロッパ・南米・アフリカ(場合によってはアジア)を結んで近年形成されつつある「ポルトガル語圏」音楽にも興味を持っています。
メッセージ
大衆音楽は、それぞれの地域・時代の社会構造やメディア編制や文化的価値体系のなかで、常に揺れ動いています。こうした「ナマモノ」を扱うには、相応の道具立てとそれを使いこなす知恵と技術が必要です。ポピュラー音楽研究は若い学問分野ですし、民族音楽学が「近代」を問題にしはじめたのも最近です。必然的に隣接領域からの「借り物」が多くなります。そして、借りたものは返す必要があります。生産的で知的な貸し借りを行ううえで、総合大学の文学部という環境は非常に望ましいものであると信じています。
主要業績
『創られた「日本の心」神話』(光文社新書、2010年、サントリー学芸賞受賞)、「クラシック音楽の語られ方」(渡辺裕・増田聡ほか『クラシック音楽の政治学』青弓社、2005年)、「音楽のグローバライゼーションとローカルなエージェンシー」(『美学芸術学研究』第20号、2002年)、「日本のワールド・ミュージック言説における文化ナショナリズム傾向」(『美学』第52巻4号、2002年)、「音楽による民族=地域的『文化』の創出―ブラジル・サルヴァドールの事例から」(『美学』第50巻4号、2000年)。
概説書・一般書
事典項目「現代の民族音楽学」「日本のワールドミュージック」「祝祭文化の政治性」(『事典・世界音楽の本』岩波書店、2007年)、事典項目「ライブ」「ワールドミュージック」(『音の百科事典』丸善出版、2006年)、論考「『はっぴいえんど神話』の構築」(『ユリイカ』2004年9月号)、論考「100%NEGRO?:現代ブラジルにおける『アフロ・アイデンティティ』の諸相」(『季刊エクスムジカ』第4号、2001年)。

2021年 4月更新

准教授 鈴木 聖子

すずき せいこ
1971年生。東京大学大学院人文社会系研究科(文化資源学)博士課程単位修得退学。博士(文学)。同研究科附属次世代人文学開発センター特別研究員、パリ第7大学日本学助教などを経て、2020年大阪大学大学院文学研究科助教。2024年4月より現職。
専攻:音楽学
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研究紹介
近現代日本における伝統音楽・伝統芸能に関する価値判断の形成プロセスを、音楽史・音響文化論・文化資源学の視座から紐解いています。雅楽という「中央」の音楽芸能に携わりつつ、放浪芸という「周縁」の音楽芸能にも取り組んでいます。また、サウンドスケープ思想やサウンドアートを日本の伝統的な音楽芸能の「響き」から捉える試みをしており、サウンド・アーティストとイベントをしたり、音響文化論やサウンドスケープ思想に基づくユニヴァーサルデザインとしての音楽芸能イベントに取り組んだりしています。
メッセージ
19世紀末以降の日本では、西洋の様々な音楽文化が公的な音楽教育や一般社会に浸透したことで、江戸時代から続いてきた伝統的な「日本音楽」はアイデンティティ喪失の時代を迎えました。従来の音楽学では、これらの「日本音楽」を「保護」するために、文献や楽譜を用いた実証主義的・歴史主義的な研究が中心でした。そうした研究を尊重しつつも、そこでは疑いを持たれることがないパラダイムに科学史的・メタ的に着目し、さまざまな日本の音や音楽を「伝統」よりも「響き」として捉え直したいと考えています。
主要業績
『〈雅楽〉の誕生:田辺尚雄が見た大東亜の響き』(春秋社、2019年、サントリー学芸賞受賞)、「田辺尚雄の日本音楽論と心理学」(『音楽と心の科学史』春秋社、2023年)、『掬われる声、語られる芸:小沢昭一と『ドキュメント 日本の放浪芸』』(春秋社、2023年、芸術選奨文部科学大臣賞受賞)、「小沢昭一の「ベートーヴェン人生劇場〈残侠篇〉」:『題名のない音楽会』における日本の伝統音楽・伝統芸能の役割」(『ベートーヴェンと大衆文化』春秋社、2024年)ほか。
概説書・一般書
「雅楽」(『芸術教養シリーズ22 伝統を読みなおす1』京都造形芸術大学・東北芸術工科大学出版局、幻冬舎、2014年、第九章)、「田辺尚雄の『東亜の音楽』を聴く」(国立国会図書館『歴史的音源』「テーマ別音源紹介」、2020年、URL https://rekion.dl.ndl.go.jp/ja/ongen_shoukai_17)、「「古代」の音」(『音と耳から考える』アルテスパブリッシング、2021年)、「声と音の芸能史:『小沢昭一的小三治』」(『ユリイカ』2022年1月号)

2024年 4月更新