演劇学

音楽学も演劇学もともに我が国の総合大学の中に位置づけられているという点で数少ない存在です。ともに音楽文化、演劇文化全般を広く扱い、いわゆる「クラシック」音楽や民族音楽から日本古典音楽、ポップ・ミュージックまで、また西欧演劇や日本古典演劇からミュージカルやバレエまで、それらを広く表演芸術(パフォーミング・アーツ)としてとらえて、音楽史演劇史的にはもちろん、人類学や社会学また美学や文学などの隣接諸科学との関係の中で研究を進めています。ここには多くの大学院生が所属しており、それぞれの専門領域の研究に熱心に取り組んでいます。専門領域や知的背景を異にする多くの院生たちは、日々の講義や演習を通して互いに刺激しあい、学会での口頭発表や論文執筆をする一方で、それぞれにコンサートや演劇上演など実際に関わる機会も少なくなく、研究の社会的広がりを常に念頭において活動しています。

教員紹介

准教授 中尾 薫 准教授 古後 奈緒子(兼任) 准教授 横田 洋 講師 伊藤寧美

准教授 中尾 薫

なかお かおる
1978年生。2001年、奈良女子大学文学部言語文化学科日本アジア言語文化学卒業、2008年、大阪大学大学院文学研究科(演劇学)博士後期課程修了。博士(文学)。2009年、早稲田大学坪内博士記念演劇博物館助手。2011年、大阪大学大学院文学研究科専任講師を経て、2014年4月より現職。
専攻:演劇学、能楽研究。
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研究紹介
とくに江戸時代中期、十五世観世大夫元章の能楽改革〈明和の改正〉の分析、とくに田安宗武の影響についての考察。これは修論から追いかけているテーマで、わたしのライフワークです。最近は、明治・大正期における能楽の近代化や能楽改良の諸問題について、そのほか無形文化遺産としての能と昆劇の比較研究、能の身体技法についても手をひろげて研究をしていますが、最終的には、江戸幕府時代における能楽の発達史・沿革史に帰っていきたいと考えています。
メッセージ
伝統芸能を研究していると、 重層的な過去という地層の上に現在の事象があることを痛感します。そして、それぞれの環境やかかわった先人たちの創意工夫の異相性とともに、時代を経ても 変わらない核のようなものを発見・認識できたとき、そこには未来への指針が隠されているように思います。芸能という形態によって結実する人間の営みをひもとき、その意義を解明し伝えられるように、みなさんと一緒に修練していきたいと考えています。
主要業績
【共著】泉紀子編『新作能 マクベス』(2015年、和泉書院)、松岡心平編『観世元章の世界』(2014年、檜書店)、【論文】「福王流平岡家一門の素謡番組―近代における京都素謡会の片鱗―」(『謡を楽しむ文化―京都の謡の風景』2016年10月)など。
概説書・一般書
「観世文庫の文書85 観世正宗極并伝来書」(『観世』83巻4号、巻頭、2016年4月)、「観世元章の革新と明和改正謡本」(『国立能楽堂』383号、2015年7月)、「能《実盛》と老後の思い出」(『廣田鑑賞会能』パンフレット2015年10月)な ど。

2018年 8月更新

准教授 古後奈緒子

こご なおこ
1972年生。2004年大阪大学 文学研究科文化表現論(美学)修了、修士(文学)。京都造形芸術大学、大阪外国語大学、龍谷大学、神戸市外国語大学、奈良大学、神戸女学院大学等の非常勤講師、2014年より大阪大学文学研究科助教を経て、2017年4月より現職。
専攻:舞踊学
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研究紹介
舞踊史、舞踊理論研究と現代のダンス、パフォーマンスの批評の間を行き来して活動しています。舞踊史では、1880年代以降の舞台舞踊に現れる諸変化を、ジェンダーやテクノロジーなどの社会的な観点から捉え直しています。また、激変するメディア環境と身体の関係に関心を寄せながら、現代の舞台芸術にも瞠目しています。
メッセージ
いまや、メディアやロボットなど技術的拡張の中で注目を集めることの多いダンスですが、生身のボディはまだまだ問題です。ボディは人間と環境をつなぎ、同時に社会の利害関心と矛盾を引きよせます。ダンス・スタディーズは、この魅力的ながら恐ろしく面倒くさい身体を拠り所に、試行錯誤を続けてきました。活動を自分で評価し社会に訴えたいダンサーから、運動のしくみを解明したい技術者まで。そうした歴史的野心と付き合いながら攪乱するように個々の下心を展開できるのは、本講座なのかなと思っています。
主要業績
「エレクトラとダイナモの結婚 --ウィーン国際電気博覧会における電気劇場のバレエ」(『近現代演劇研究』vol.10、2022年)、「二つの『七つの大罪』—バランシンとバウシュが二人のアンナに見たものー」(『演劇学論叢』 14号、2015年)、「生の救済の試みとしての「未来の舞踊」構想—ジャック=ダルクローズとホーフマンスタールの"リズム"に対するアプローチの比較—」(『舞踊學』28号、2005年)
概説・一般書
事典項目「モダンダンス」(『ドイツ文化事典』丸善出版社、2020年)、論考「記録メディアとしてのパフォーマンス台本に関する試論 ――維新派『nostalgia』の上演台本の創造性――」(『漂流の演劇:維新派のパースペクティブ--』大阪大学出版会、2020年)、論考「クリストフ・シュリンゲンジーフとヒトラー 欲望と注視の再分配」(『ナチス映画論 ヒトラー・キッチュ・現代』森話社、2019年)

2023年 3月更新

准教授 横田 洋

よこた ひろし
1976年生まれ。大阪大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。2011年、大阪大学総合学術博物館助教、大阪大学大学院文学研究科兼任。2017年大阪大学社学共創本部助教を経て、2023年より現職。
専攻:演劇学
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研究紹介
日本近代の芸能史。特に明治後期から大正期の映画や演劇をはじめとする芸能について研究しています。異なるジャンルにみえる複数の芸能が実は不可分な関係にあったりする状態、あるいは複数の芸能がその中間領域でせめぎあったりする現象に興味があります。具体的には大正期に流行した連鎖劇(映画と演劇を交互に組み合わせて上演/上映する芸能)や劇場や映画館、寄席、見世物小屋などの興行場のあり方やその変化などを研究しています。
メッセージ
大阪大学総合学術博物館と人文学研究科の兼任です。博物館では、大学の最新の研究成果を展覧会の形式で紹介しています。最新の研究成果といっても、歴史や美術、古生物など展示映えする学問分野がある一方、一般には展示に向かないと思われる分野もあります。研究成果を論文ではなく、展覧会の形式に変換することで、その研究が抱える新たな課題が見えてくることもあります。美術や歴史以外でも研究成果の発信方法として展覧会を視野に入れてもらえると嬉しいです。
主要業績
「山崎長之輔の連鎖劇―池田文庫所蔵番付から」(『演劇学論集』44号、2006年)。連鎖劇の興行とその取り締まり―東京における事例をめぐって―」(『フィロカリア』25号、2008年)。「舞台俳優時代の衣笠貞之助」(『近代日本における音楽・芸能の再検討』、2010年)。「明治期の映画取り締まりについて—小浜松次郎『警察行政要義』の記述から」(『演劇学論叢』17号、2018年)
概説書・一般書
『映画「大大阪観光」の世界‐昭和12年のモダン都市‐』(共著、大阪大学出版会、2009年)。『忘れられた演劇』(共著、森話社、2014年)。『商業演劇の光芒』(共著、森話社、2014年)。『乙女文楽—開花から現在まで—』(共著、大阪大学出版会、2023年)

2023年 4月更新

講師 伊藤 寧美

いとう なび
1988年生。2014年、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了(学術)。2023年、バーミンガム大学大学院博士課程修了(PhD in Drama and Theatre Studies)。2024年4月より現職。
専攻:演劇学
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研究紹介
現代英国演劇、特に戯曲の研究をしています。同時代の社会を描く作品のテーマ性と劇作のスタイルやドラマツルギーといった形式が、戯曲およびその上演においてどのように関連しているのかについて考えています。最近は、演劇におけるマイノリティの人々の表象とドラマツルギーの問題に関心を持っています。
メッセージ
たとえ古典戯曲の再演であっても、現代の演出家や俳優が作り上げる上演を劇場に集う観客が鑑賞するという意味で、演劇は今ある社会と密接にかかわる芸術だと言えます。すなわち、私たちを取り巻く社会について考えることもまた、作品解釈の重要なプロセスです。総合大学で演劇を学ぶ大きなメリットの一つは、他分野の専門知に触れる機会が身近にあることだと思います。演劇学を専門に学ぶからこそ様々な学問領域に関心を持ち、より広く深い視点で作品を楽しむ教養を身に着けて欲しいと思います。
主要業績
「サイモン・スティーヴンス『広い世界のほとりに』―実験的作劇法とメロドラマ的家族劇の調和―」、「ルーシー・カークウッド『チャイメリカ』―キメラのような米中関係におけるジャーナリズムの倫理とは―」(ともに『現代演劇 特集ローレンス・オリヴィエ賞』、現代演劇研究会編、朝日出版社、22号、2020年)など。
概説書・一般書
「彼女と社会のいびつな距離感―スヌーヌー『長い時間のはじまり』評」(『紙背』2023年11月号)、「『絶望と共に在ること』 アンジェリカ・リデル『地上に広がる大空(ウェンディ・シンドローム)』」(Webマガジン「シアターアーツ」、2016年)、「回転舞台の上、ねじれた権力の形――新国立劇場『温室』」(『シアターアーツ』52号、2012年)など。

2024年 4月更新