美学

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 美学研究室は、美学思想をさまざまな芸術とのつながりから理解することを重視してきました。現在はさらに、美学という学問がいかに日常生活とかかわりを持つのかにも関心を向けています。美学が積み重ねてきた議論は、分野を横断するアートを考察するうえで有効ですし、デザインの歴史について考える手がかりにもなります。今日ますます芸術を定義するのが難しいのは、周縁がたえず更新されて輪郭が定まらないからでしょう。ならば、芸術をその周縁から考えるのは一番有効な方法です。そして、既存の芸術ジャンルに制約されない美学こそが周縁分野に足を踏み入れることができます。

教員紹介

教授 高安 啓介 教授 田中 均 准教授 東 志保(兼任)

教授 高安 啓介

たかやす けいすけ
1971年生。一橋大学社会学部卒業。大阪大学大学院文学研究科博士課程修了(芸術学)。博士(文学)。愛媛大学法文学部准教授を経て、現職。
専攻:美学/芸術学
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研究紹介
文系らしいデザイン美学のありかたを考えるなかで重要な仕事と思われたのは、デザインを論じるうえで鍵となってきた「美学用語」について反省することでした。分野をまたがって使用される「美学用語」の意味を顧みることは、異なる分野の人間どうしが議論するうえで不可欠な作業であると考えます。拙書『近代デザインの美学』では「構成」「形式」「様式」「空間」「表現」などについて論じましたが、今後はそれらに加えて、現代デザインの鍵用語についても考察を進めようとしています。たとえばそれは「社会」「地域」「包容」「環境」「持続」などです。これらは社会系の用語ではありますが、今後それらはアートを論じるうえでも欠かせない点において、立派な「美学用語」になると信じています。
メッセージ
18世紀にバウムガルテンが美学を「感性的認識の学」として創始したならば、現代の美学は「感性の交通の学」として特徴づけられると思います。現代の美学のおもな仕事は、感性コミュニケーションについて反省し、伝達の媒体となる諸要素について理解を深めることではないでしょうか。とはいえこれは新しい関心のようで、美学の歴史からすれば、新しくはない仕事です。従来から美学は、芸術諸分野において鍵となる用語について考察してきましたし、作品の形象にそなわる伝達の働きについて考察してきました。たしかに先人から学ぶことは多いので、思想史研究はなお大きな意味をもちます。私たちは美学のもつ「感性の交通の学」の側面をもっと意識して、生き生きとしたコミュニケーションを生成するのに一定の役割をはたせるよう試行錯誤をおこないます。
主要業績
『近代デザインの美学』(単著、みすず書房、2015); 「形象としての具体詩」『形象』2号(2017); 「アドルノ美学における形象の問題」『形象』1号(2016);“The Development of Design Education for Children in Japan,” ACDHT (2015); 「美学の視点からみた近代タイポグラフィ」『デザイン理論』60号(2012); “Gestaltung and Kosei: Key Concepts in Design Education,” Words for Design, no.2 (2009);「仮象とアンチ仮象:ラッヘンマンの作曲によせて」『音楽学』48巻2号(2003); アドルノ『社会学講義』(共訳、作品社、2001)
概説・一般書
『人文学の現在』(共著、創風社出版、2012年)。『地域文化のアクチュアリティ:愛媛からの発信』(共著、シード書房、2006年)。

2023年 7月更新

教授 田中 均

たなか ひとし
1974年生。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了(美学芸術学、2007年)。博士(文学)。日本学術振興会特別研究員(PD、2005年から2008年)、山口大学人文学部講師(2008年から2011年)、同准教授(2011年から2012年)を経て現職。日本シェリング協会第7回研究奨励賞(2011年)。
専攻:美学
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研究紹介
私の研究の出発点は、18世紀末から19世紀の初頭にかけてのドイツ語圏の美学です。具体的には、フリードリヒ・シラーとフリードリヒ・シュレーゲルの美学理論について研究し、その成果を著書『ドイツ・ロマン主義美学』にまとめました。近年注目しているのは、芸術理論における「参加」の概念で、芸術作品とその受容者の関係、また専門的芸術家と非ー専門家の関係について考察しています。さらに、「テアトロクラティア」という概念を通じて、芸術とデモクラシーとの関係を解明することも現在の課題です。
メッセージ
私は「美学」という学問を紹介する時に、「広い意味での哲学の一分野で、芸術・美・感性がその三大テーマです」と話します。そして「三つのどれかに関係すれば、美学の問題になると言えます」と付け加えます。確かに論理ではなかなか捉えがたい分野ですが、だからこそ一歩ずつ思考していく喜びや意義も大きいのです。近年では芸術や感性にかかわる新たな学問分野がいくつも生まれていますが、原理的な問いに立ち返ることによって学問相互の、そして学問と実践の交通整理をするという美学の課題はかえって増していると思います。
主要業績
『ドイツ・ロマン主義美学』(単著、御茶の水書房、2010年)、『〈過去の未来〉と〈未来の過去〉ーー保坂一夫先生古稀記念論文集』(共著、同学社、2013年)、『批評理論と社会理論1:アイステーシス』(共著、御茶の水書房、2011年)、『歴史における「理論」と「現実」』(共著、御茶の水書房、2008年)、「芸術と死ーーベンヤミン『ドイツ悲哀劇の根源』における悲哀劇と悲劇ーー」(論文、『待兼山論叢 美学篇』第46号、2012年)、「ロマン主義的アイロニーのアクチュアリティー」(論文、『西日本哲学年報』第18号、2010年)、クリストフ・メンケ『芸術の至高性』(共訳、御茶の水書房、2010年)
概説・一般書
大阪大学ショセキカプロジェクト編『ドーナツを穴だけ残して食べる方法』(共著、大阪大学出版会、2014年)、H・J・ザントキューラー編『シェリング哲学』(共訳、昭和堂、2006年)

2024年 4月更新 (写真撮影:近松由望)

准教授 東 志保

あずま しほ
1979年生。国際基督教大学比較文化研究科博士前期課程修了(比較文化)。パリ第三大学映画視聴覚研究博士(Docteur en Cinéma et Audiovisuel)。大阪大学文学研究科助教を経て、2021年4月より現職。
専攻:映像研究、比較文化論
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研究紹介
専門は、フランス語圏を中心としたドキュメンタリー映画の研究ですが、特に間メディウム的な映像表現のあり方に関心を寄せています。フランス留学時代から、クリス・マルケルという映像作家の研究を続けていますが、近年は他の作家にも対象を広げて、映像における美学と倫理の共存や映像と言葉の交錯について考察することを課題にしています。
メッセージ
現在、動く映像を見るということは特別な経験でも何でもなくなってしまいましたが、その成り立ちやあり方は「近代」を生きる私たちの思考や経験に大きな影響を与えています。純粋に映画を楽しむことは、映画の歴史を学んだり、映像を分析することとは相容れないように思うかもしれません。しかし、映画を見る喜びから、世界への探究心も生まれるのです。スクリーン(あるいは画面)の中と外を繋ぐような視点をぜひ養っていただければと思います。
主要業績
『ジャン・ルーシュ:映像人類学の越境者』(共著、森話社、2019年); 「ヨリス・イヴェンスのエッセイ映画―『セーヌの詩』から『ロッテルダム・ユーロポート』まで」 『Arts and Media』 9号(2019); CinémAction n°165 Chris Marker : Pionnier et novateur (共著、Edition Charles Corlet, 2017);『クリス・マルケル:遊動と闘争のシネアスト』(共編著、森話社、2014年)
概説・一般書
『未来の記憶のためにークリス・マルケルの旅と闘い』(共編著、山形国際ドキュメンタリー映画祭、2013年)

2021年 6月更新